2011年11月14日月曜日

日本精神障害者リハビリテーション学会 第19回京都大会

2011年11月13日(日)
 

精リハ学会第19回京都大会の一般演題で,精神科医療機関の
スタッフの家族関与の実態(予備的調査)の結果を報告し,家族
心理教育プログラムに参加する前の家族への関わり(関係づくり)
をシステムで取り組むための方策の示唆をまとめた。

●結果の概要
・入院時家族面接,初診時,面会時等の家族との接触機会に多く関わりがある。
・患者の状況の情報源,治療への協力者としての関わりは一定程度行われている。
 

●方策の概要
・家族自身の経験やストレングス・対処に焦点を当てた関わりが行える方策が必要。
・業務に追われる中でも,“誰か” が関われるような体制構築(役割設定等)が必要。

ところで,質疑応答で次のような意見が出た。

1) 看護師のスキルによる部分が大きく,全員が関わるのは難しいのではないか。
  多忙で難しいのはその通りであり,どうすれば看護の業務に位置づくのか。

2) 日本の家族の特徴(専門家の前では多くを語らない)を考慮すると,専門家
  が積極的に関わってもストレングスや対処を聞き出すのは難しいのではないか。
  家族心理教育プログラムで,他の家族の前であれば話せることが多い。

ご意見のとおりであり,そこに難しさを感じている。

1) , 2) の意見を受けての回答や,その後で考えたこと。


1) に対して

スタッフ研修に位置付ける。
これまでも“家族心理教育の研修” は多く行われているが,日常業務の中
での関係づくりのような家族対応が扱われている研修は,知る限り,ない。
 

家族心理教育のため,というと新たな業務が増えることになると捉えられ,
抵抗感が増す可能性がある。調査で明らかになったように,既に看護師も
多くの関わりを家族に対して行っている。その関わりのプラスアルファと
して,家族のストレングスや対処に焦点を当てることを加える,すなわち
「一歩踏み出す」取り組みとして加えられないか。
 
その具体的な方法を,今回の調査で明らかになったことを元に考えて行きたい。


2) に対して
 
米国の関係づくりのモデル,焦点をそのまま輸入することは,日本の実情に
合わない可能性があり,この点はさらに検討することは必要かもしれない。
 
ただ,聞き出す,話してもらうことよりも,家族に関心を向け,協働を構築
することが重要であり,その方法の一つとして,ストレングスや対処に焦点
を当てた関わりを行う,と考える方が妥当であろう。


そしてその後,2) に対して色々考えた。

「専門家の前では家族はあまり多くを語らない。
  家族心理教育に参加して,他の家族の前では色々語る。」

そうかもしれない。
それ自体は,自然のことだと思う。

そしてそこに,いくつかのトラップがある。

① 語れる家族が参加する,あるいは参加した家族は語れる。
  語れない家族は参加しない,あるいは参加しない家族は語れない。

② 専門家の前では家族はあまり多くを語らないのは,日本の家族自体
  の特徴もあるだろうが,日本の「専門家-家族」の関係性に縛られた
  中での反応ではないのか。


①については,だからこそ家族心理教育のスタッフだけではなく,
システムとして全体で家族と関係づくりを行えるような工夫を行い,
ニーズを持つ家族に多く家族心理教育プログラムに参加してもらえ
るように する必要があるだろう。

家族心理教育プログラムに結果として参加できなかったとしても,
日常的な家族関与の中で,家族心理教育的な関わりとしての
関係づくりの要素を行う必要があるだろう。


②については,関係づくりが「姿勢」から重要になってくることを示唆する。

家族は次のような反応を示していることが多い。
 
 「身内が統合失調症で入院することとなり,専門家にお世話になります。」
 「近くにいながら身内がこのようなことになってしまい,申し訳ございません。」
 「家族で見るのに疲れました。どうか病院で見てやってください。」

そうした家族が,専門家に何を語ってくれるだろうか。
そうした家族が,専門家から声をかけられることに,どれだけ抵抗を示すだろうか。

専門家からの声掛けに心から耳を傾ける,専門家に自分の体験を語る,
そのためには,家族に関わる専門家の“姿勢” が問われるように思う。

家族のストレングスや対処を聞けばよいという,"how to" だけではない。
当然だが,その関わりの姿勢にも,注意を払っていかなければならない。
その姿勢をいかに獲得していくか,ここにも焦点を当てる必要があるだろう。

発表し,意見を受け,考えたことで,改めて視点が整理された。

率直な意見を出してくれた方に,感謝である。


※ 当日の発表パワーポイント
  ↓
 http://dl.dropbox.com/u/45742302/%2319JAPR_PPTniekawa.pdf


※ プログラム集に掲載した抄録
  ↓
 http://dl.dropbox.com/u/45742302/%2319JAPR_SMRYniekawa.pdf


2011年10月18日火曜日

標準版家族心理教育研修会(市川開催)の案内


私が関わっている,統合失調症を中心とする
精神障害をもつ人の家族に対する心理教育
(家族心理教育)の研修会に関する案内です。

関心のある方のご参加をお待ちしています。
広く周知して頂けると幸いです。


【研修会開催告知】

研修会名:標準版家族心理教育研修会

日時:12月10日(土),11日(日)

場所:市川市男女共同参画センター
(千葉県市川市市川1-24-2)

内容:
統合失調症をはじめとする精神障害をもつ人の
家族を対象とした心理教育(家族心理教育)の
基礎的な知識とスキルを学ぶための研修会。

主催:日本心理教育・家族教室ネットワーク
共催:NPO法人地域精神保健福祉機構(COMHBO:コンボ)

講師:
日本心理教育・家族教室ネットワーク認定
家族心理教育インストラクター7名(★)及びアシスタント(●)

★大島  巌 (日本社会事業大学・NPO法人コンボ)
★福井 里江 (東京学芸大学)
★小林 清香 (東京女子医科大学)
★土屋 光紀 (初石病院)
★小河原麻衣 (国立国際医療研究センター国府台病院)
★人見加津子 (元・国立国際医療研究センター国府台病院)
★贄川 信幸 (日本社会事業大学・NPO法人コンボ)
● 森山亜希子 (吉祥寺病院)
● 井上 敦子 (東京女子医科大学)
● 逆井 裕美 (国立国際医療研究センター国府台病院)
● 今井佐知子 (国立国際医療研究センター国府台病院)

詳細情報・申込み方法
:下記の「ここをクリック」からダウンロードしてご覧下さい。

研修会実施要項 → ここをクリック
申込用紙 → ここをクリック


★ 同様の内容は,主催・共催団体ホームページからも
  ご覧いただけます。

日本心理教育・家族教室ネットワーク ホームページ
 (他の地域での開催研修情報も掲載されています)

NPO法人地域精神保健福祉機構 ホームページ
 (様々な地域精神保健福祉関連の情報も掲載されています)

2011年4月27日水曜日

家族心理教育のモデル

ブログを立ち上げたものの,書く時間がなかなか取れず。
10日ほど前の出来事を,まずは第一弾として。
 
 
佐賀県の,とある病院から家族心理教育のスタッフ研修講師依頼。
羽田空港は,節電で薄暗かった。
 

 

日本における統合失調症の家族心理教育は,標準版と呼ばれる,
枠組み,スタッフの役割などが明確にされているモデルがある。
 
これは,海外で効果が実証されている家族介入モデルを参考にしながら,
日本でも実施しやすいように工夫された家族心理教育モデルで,
日本でもRCT(無作為化比較試験:Randomized Controlled Trial)
で効果が実証されている。
 
千葉県市川市にある国立国際医療研究センター国府台病院で
モデルが考案されたことから,「国府台モデル」とも呼ばれている。
 
 
国府台モデルは,枠組みやスタッフの基本姿勢は分かりやすいものの,
グループセッションにおけるスタッフの役割は,実践の中では
明文化されている要素を流れの中で柔軟に応用することが求められ,
ともすれば,自分たちが行っている実践が「国府台モデル」なのか,
自己流になっているのか,分かりにくいところもある。
 
現実的には,国府台モデルではなくとも“家族をエンパワーする”
ベースの部分を踏まえていれば,亜型やオリジナル版が出てきても
良いと思うが,一つの準拠モデルとして意識されていることは
必要であるように思う。
 
 
 
今回の研修会は,まさにこの点で要望が上がってきたものである。

つまり,自分たちの病院は国府台モデルではないかもしれず,
それはそれで良いと思っているが,国府台モデルを改めて確認したうえで,
自分たちの実践を振り返りたい,そのために,国府台モデルを押さえている
贄川を研修講師として招きたい,というものであった。
 
目的,位置づけが実に明確であり,入りやすい研修であった。
 
 

前半は家族心理教育に関する情報提供の講義。
 

 
 
後半は,課題のグループセッション。
研修受講スタッフがロールプレイでグループセッションを行い,
随時,ポイントの確認とコメントを行うという形式で進めた。
 
いくつか課題は確認されたものの,目の前で展開されていた
ロールプレイは,スタッフの基本姿勢,進め方,役割は,
国府台モデルと呼べるものであったと思う。
 
こうした場合の講師の役割は,次の点になるだろう。
 
①皆さんの行っているグループセッションは国府台モデルの
 大事な要素をきちんと踏まえていると伝えることで
 スタッフに自信をもってもらうこと。
 
②課題に関して国府台モデルの要素を改めて確認すること。
 
③そのうえで,あえて加えるのであれば,国府台病院では
 ○○の点を△△している,等の情報を伝えることで,
 国府台病院での様々な工夫を知ってもらうこと。
 
 
これまでも様々な工夫を行いながら家族心理教育を
展開してきた病院だけに,スタッフは皆,実力者揃い
である,というのが,研修を終えての率直な感想。
 
 
夕方の飛行機で帰るスケジュールを組んでしまったので,
病院スタッフとの挨拶もそこそこに,病院を後にした。
 
 
羽田空港から,迷った挙句に選んだ京浜急行は,
品川に着く手前で,人身事故でストップしてしまった。
 

 
★ 標準版家族心理教育(国府台モデル)に関するテキスト
 
心理教育実施・普及ガイドライン・ツールキット研究会ほか(編)
心理社会的介入プログラム実施・普及ガイドラインに基づく
心理教育の立ち上げ方・進め方ツールキットⅡ 研修テキスト編

特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構(2009年)
 

2011年4月2日土曜日

開設

4月1日を機に,研究関連のことに限らず,
少しずつですが,色々発信していこうと思います。
 
細く,長く。